平成11年度税制改正の要点
平成11年度の税制改正大綱による平成11年度の税制改正は「景気回復」に主眼をおいた減税基調の改正となっている。
法人税関係では、その毎事業年度の所得に対する実効税率(法人税・事業税・住民税を合わせた税率・表面税率ともいう)を46,36%から40,87%に引き下げるのを始め、取得価額100万円未満のパソコンを取得した場合、その取得年度において一時の損金算入を認める「パソコン税制」の創設、「中小企業投資促進税制」の拡充等の措置を盛り込んでいる。
所得税関係では、個人所得課税の所得税と個人住民税とを合わせた最高税率を65%から国際水準の50%に引き下げたほか、所得税の定率減税、「住宅ロ−ン控除制度」の拡充等の改正が行われた。
景気回復のためのこれらの改正により、個人所得課税について、国と地方とをあわせ、4兆円規模の恒久的減税が行われることとなる。法人課税においても、経済国際化の時代の到来を前提にして、平成10年度改正により引き下げられた実効税率46,36%をさらに40,87%に引き下げて、総額3兆円を上回る規模の減税を実施する。
なお景気刺激のための政策減税として、住宅ロ−ン控除制度を拡充し、従来の住宅税制に比し、格段の刺激効果を期待することとし、雇用創出の観点から投資減税の拡充を図っている。一方において長寿化社会を支え将来を担う次の世代を育成するため、扶養控除の加算により子育て・子弟教育等の負担を軽減する。
大幅な減税による国家財政の現状については、景気低迷の長期化・経済政策による公共投資等により、平成10年度の公債発行額は34兆円、公債依存度は40%に達する水準に近づき、平成10年度末の国・地方の長期債務残高は560兆円の規模に膨らんでいる。今後改正案は国会審議を経て、細目に関しては政令・規則・通達等により段階的に明らかにされる。
個人所得税の減税
所得税と個人住民税を合わせた最高税率を従来の65%から国際水準の50%に引き下げるとともに、すべての所得階層に減税効果が及ぶように定率減税を組み合わせてた減税を行う。この減税は期限を定めない措置として恒久的減税と呼ばれる。
(1)所得税の最高税率の引下げ
平成11年分以後の所得税の税率を次のように改正する。
課 税 所 得 |
改 正 前 |
改 正 後 |
3,300,000円以下
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10% |
10% |
3,300,000円超9,000,000円以下
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20% |
20% |
9,000,000円超18,000,000円以下
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30% |
30% |
18,000,000円超30,000,000円以下
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40% |
37% |
30,000,000円超
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50% |
37% |
(2)所得税の定率減税
定率減税はその者の所得税額から定率減税の額を控除する。定率減税の額は、その所得税額の20%相当額とする。ただし、20%相当額が25万円を超える場合は、25万円とする。給与所得者にかかる定率減税は、平成11年4月から定率減税を織り込んだ税額表に定める税額とする。年末調整の際の平成11年分年税額は、年調年税額から定率減税額を控除する。個人事業者の予定納税基準額は、定率減税を織り込んで計算する。確定申告書については、その年分の所得税額から定率減税額を控除する。この改正は、平成11年分以後の所得税について適用するが、給与所得者の定率減税については、新税率表により平成11年4月以後に支払うべき給与から適用する。1月から3月までの期間分については、平成11年6月以降に支払う給与の源泉税から還付する。
(3)住民税の最高税率の引下げ
平成11年分以後の住民税の税率については、課税所得700万円超の部分にかかる市町村民税の税率を12%から10%に引下げる。
(4)住民税の定率減税
定率減税は、その者の個人住民税所得割額から定率減税の額を控除する。定率減税の額は、その年分の個人住民税所得割額の15%相当額とする。ただし、その15%相当額が4万円を超える場合は、4万円とする。
法人税の減税
急速に進展する企業活動の国際化に対応し、我が国企業の国際競争力を強化する観点から、国と地方とを合わせた法人課税の実効税率を40%程度に引き下げる。これに準じて、中小法人・公益法人・協同組合等に対する軽減税率についても、相応の引き下げを行う。
(1) 法人税率の引下げ
法人税の税率を次のように引き下げて、法人の平成11年4月1日以後に開始する事業年度から適用する。
適 用 区 分 |
改正前 |
改正後 |
普通法人の税率 |
34.5% |
30.0% |
中小法人の軽減税率 |
25.0% |
22.0% |
公益法人・協同組合等の軽減税率 |
25.0% |
22.0% |
(2) 法人事業税の引下げ
法人事業税の標準税率を次のように引下げ、法人平成11年4月1日以後に開始する事業年度から適用する。
普通法人の標準税率
所 得 区 分 |
改正前 |
改正後 |
年400万円以下の所得 |
5.6% |
5.0% |
年400万円超800万円以下の所得 |
8.4% |
7.3% |
800万円超の所得及び清算所得 |
11.0% |
9.6% |
特別法人の標準課税
所 得 区 分 |
改正前 |
改正後 |
年400万円以下の所得 |
5.6% |
5.0% |
年400万円超及び清算所得 |
7.5% |
6.6% |
所得税の扶養控除額の引上げ(子育て・教育減税)
年齢16歳未満の扶養親族にかかる扶養控除の額を、従来の扶養控除の額38万円に10万円を加算した額とする。特定扶養親族(年齢16歳以上23歳未満の扶養親族)にかかる扶養控除の額は、従来の扶養控除の額58万円に5万円を加算した額とする。これらの改正は、平成11年分以後の所得税について適用する。
住宅ロ−ン控除制度の拡充
従来の住宅取得促進税制を次のように改組し、平成11年1月1日以後に自己の居住の用に供する場合に適用する。
(1) 控除期間・控除率の改正
平成11年中又は12年中に居住の用に供した場合の住宅借入金の年末残高限度額を3,000万円以下から5,000万円以下に引上げた上、控除期間を6年から15年に延長し、控除率を次のように改める。
控 除 期 間 |
控 除 率 |
1年目から6年目まで |
1.00% |
7年目から11年目まで |
0.75% |
12年目から15年目まで |
0.50% |
平成11年1月1日から同年3月31日までの間に居住の用に供した者については、新制度と従来制度の選択適用を認める。
(2) 適用対象借入金の拡大
適用対象となる住宅借入金の範囲は、従来住宅取得にかかる借入金に限られていた。それが今年度の改正により、新築住宅又は既存住宅とともに取得するその住宅の敷地である土地の取得にかかる借入金を含むこととなった。その借入金は、その土地の取得に充てるため、その住宅の取得にかかる借入金と一体として借り入れた償還期間10年以上の借入金でなければならない。
(3) 適用対象住宅の拡大
適用対象となる新築住宅又は既存住宅の床面積要件の上限240uを撤廃する。適用対象となる既存住宅の築後経過年数要件について、耐火建築物にあっては、20年以内から25年以内に、耐火建築物以外の建築物にあっては、15年以内から20年以内にそれぞれ緩和する。
(4) 適用期日
新制度のうち「控除期間の延長」と「適用限度額の引上げ」については、平成11年及び平成12年中に居住の用に供した場合に限り適用される措置であるが、「適用対象借入金の拡大」及び「適用対象住宅の拡大」については、平成13年までに居住の用に供した場合に適用される。今回の改正で、住宅ロ−ン控除の適用区分は、「平成9年10年居住分」「平成11年12年居住分」「平成13年居住分」の3つに分かれる。このうち新制度の適用があるのは「平成11年12年分」で、その他は従来通りの「借入金限度額」「控除率」「控除期間」が適用される。ただし、敷地部分にかかる借入金にロ−ン控除については「平成11年1月1日以降居住分」から認められるから「平成13年居住分」についても適用されることとなる。平成11年1月1日から同年3月31日までの間に居住の用に供したときは、新旧いずれかの控除率等を選択できる。
(5) 譲渡損失繰越控除制度の併用
特定の居住用財産に買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除制度と住宅ロ−ン控除制度との併用を認める。この措置は、平成11年1月1日以後に譲渡した対象住宅の譲渡損失について適用する。住民税についても、同様の制度とする調整措置を講ずる。
住宅取得資金贈与特例の拡充
(1) 特例の計算限度額の引上げ
住宅取得資金の贈与を受けた場合の贈与税額の計算の特例について、その適用期限を平成12年12月31日まで延長し、特例の計算限度額を1,000万円から1,500万円に引き上げる。特例計算の算式は従来通りであり、非課税限度額は300万円のままである。
(2)適用対象住宅の拡大
適用対象となる新築住宅又は既存住宅の床面積要件の上限240uを撤廃する。適用対象となる既存住宅の築後経過年数要件について、耐火建築物にあっては、20年以内から25年以内に、耐火建築物以外の建築物にあっては、15年以内から20年以内にそれぞれ緩和する。
(3) 適用時期
上記の改正は、平成11年1月1日以後に贈与により取得した住宅取得資金にかかる贈与について適用する。
土地税制の減税
(1)土地譲渡にかかる税率
平成11年1月1日から平成12年12月31日までの間に長期保有の土地等を譲渡した場合の譲渡所得については、次により課税する特例措置を講ずる。
区 分 |
改正前 |
改正後 |
特別控除後の譲渡益 6,000万円以下の部分 |
所得税 20%住民税 6% |
所得税 20%住民税 6% |
特別控除後の譲渡益 6,000万円超の部分 |
所得税 25%住民税 7,5% |
所得税 20%住民税 6% |
(2) 土地登記にかかる登録免許税
土地に関する登記にうち課税標準が不動産であるものにかかる登録免許税の課税標準の特例について、固定資産課税台帳の登録価格に乗ずる割合を100分の40から3分の1に引き下げる。この改正は、平成11年4月1日以後に受ける登記にかかる登録免許税について適用する。住宅関連の税率軽減措置の適用条件が緩和され、その適用期限が2年間延長され、「平成13年3月31日まで」となる。この税率軽減は、住宅用家屋の「所有権の保存登記」「所有権の移転登記」及び「住宅資金の貸付けにかかる抵当権の設定と登記」に対する措置であるが、その適用対象となる住宅の床面積要件の上限の240uがいずれも撤廃されることとなり、この改正は「平成11年4月1日以後に新築又は取得する住宅」から適用される。
(3) 印紙税特例措置の延長
「不動産契約書にかかる印紙税率の特例措置」の適用期限を2年延長し、平成13年3月31日までとする。
投資関連税制の拡充
(1) 中小企業投資促進税制の拡充
中小企業投資促進税制は、総合経済対策の一環として、平成10年6月1日から1年間の時限措置として適用されているもので、その対象は機械装置・器具備品(電子計算機・デジタル複写機等)車両運搬具・内航船舶である。このうち車両運搬具は車両総重量8トン以上とされているが、この条件を3,5トン以上に拡げ、その適用期限を平成12年5月31日まで延長する。この中小企業投資促進税制は、これらの減価償却資産を期間内に取得し、製造業・建設業等の用に供したときは、取得価額の7%の税額控除又は取得価額の30%の特別償却の選択適用(リ−ス資産についても税額控除を適用)を認める制度であるが、貨物自動車の法定耐用年数は「4年」とされており、リ−ス税額控除の条件となる「リ−ス契約期間が5年以上で、そのリ−ス期間が法定耐用年数を超えないこと」に該当しないため、リ−ス控除の適用はない。この制度は、平成11年5月31日まで1年間の時限措置として創設された制度であるが、その適用期限が1年延長され平成12年5月31日まで延長する。
(2) 情報通信機器の即時償却制度の創設(パソコン税制)
新たに1年間の臨時措置として、情報通信機器の即時償却制度を創設する。個人事業者又は法人が平成11年4月1日から平成12年3月31日までの間に、取得価額100万円未満の一定の情報通信機器を取得した場合には、取得価額の全額の損金算入を認める。一定の情報通信機器としては、バソコン及びその付属設備・デジタルコピ−機・電子ファイリング設備等が予定されている。この制度の適用に当たっては、取得価額100万円未満の基準が設けられているが、これは一つの設備について判定する。したがって、パソコン5台を400万円で購入したとしても、1台当たりの取得価額が100万円未満であれば、この制度の適用対象となる。この「情報機器の即時償却制度」の適用対象となる一定の情報通信機器のについては、その取得価額が20万円未満の場合は、平成10年度に導入された「3年均等償却制度」との選択適用が可能であるが、節税上はこの「情報機器の即時償却制度」の選択が有利となる。ただし、この制度の適用期限は、平成11年4月1日から平成12年3月31日までの1年間の取得に限る時限措置であることに注意を要する。この制度は「パソコン税制」又は「特定情報通信機器の即時償却制度」と呼ばれ、その適用対象者は青色申告者である法人及び個人であり、対象機器は電子計算機を含む8種類の機器が対象となる。その特定情報通信機器の償却限度額については、「特定情報通信機器の普通償却限度額と特別償却限度額(その特定情報通信機器の取得価額のうち普通償却限度額を超える部分の金額)との合計額」とされ、その特別償却額の1年間繰越しのほか、特別償却限度額を「特別償却準備金」として積立て、その金額を申告書の上で損金に算入することも認めている。特別償却準備金を積立てた場合は、その機器の簿価からその準備金に相当する金額を差引くことなく普通償却を続け、その準備金は7年間にわたって取り崩すこととなる。
(3)中小企業技術基盤強化税制の延長
中小企業技術基盤強化税制は中小企業者の試験研究費について適用される制度である。この制度について、昨年4月の総合経済対策により「平成10年4月1日から平成11年3月31日に開始する事業年度」の試験研究費の税額控除割合が6%から10%に引き上げられている。今回の改正でこの制度の適用期限が2年延長されたが、「10%」の税額控除割合が適用されるのは、平成12年3月31日までの間に開始する事業年度のみで、その以後は経済対策実施前の6%に戻ることとなる。
(3) 中小企業経営革新支援法の制定にともなう税制措置
中小企業経営革新支援法(仮称)の制定にともない「中小企業近代化促進法及」び「特定中小企業の新分野進出等による経済の構造的変化への対応の円滑化に関する臨時措置法」にかかる税制措置は、所要の経過措置を講じた上で廃止する。
@ 支援法に定める経営革新計画にしたがって中小企業者が取得する一定の機械装置について、取得価額の7%の税額控除又は取得価額の30%の特別償却の選択適用(リ−ス資産についても税額控除の適用)を認める。
A 緊急・特別支援計画の承認を受けた組合の構成員である中小企業者が所有する機械装置については、5年間普通償却限度額の27%の割増償却を認める。
B 経営革新計画又は緊急・特別支援計画の承認を受けた組合が構成員に賦課する負担金について特別償却を認め、増加試験研究費の税額控除の対象に加えるとともに、組合が負担金により取得する試験研究資産について圧縮記帳を認める。
C 経営革新計画の承認を受けた中小企業者の欠損金額について、前1年間の繰戻し還付を認める。
有価証券譲渡所得税制の改正
有価証券取引税及び取引所税を平成11年3月31日をもって廃止する。上場株式等にかかる譲渡所得の「源泉分離選択課税」制度を平成13年3月31日をもって廃止する。廃止期限の平成13年3月31日までは、上場株式等の譲渡代金の1.05%(5.25×20%)を分離課税の選択により納付すれば、確定申告を要しない。
利子税・延滞税の引下げ
国税及び地方税の平成12年1月1日以降の期間に対応する利子税の割合が公定歩合に連動することとし、公定歩合に4%を加算したレ−トが、7.3%に満たなければ、公定歩合に4%を加算した割合とする。この公定歩合とは、日本銀行法に定められる「商業手形の標準割引歩合」を指し、平成7年9月より現在まで0.5%に据え置かれている。したがって、公定歩合が現在のまま移行すれば、利子税率は年7.3%から年4.5%に下がることとなる。相続税及び贈与税の利子税についても同様な措置をとる。なお未納税額がある場合の延滞税のうち、軽減措置となっている年7.3%の部分に限り、利子税と同様に、日本銀行の標準割引歩合に4%を加算した割合が7.3%に満たない場合は、その公定歩合に4%を加算した年率とすることとなった。さらに、従来年7.3%であった還付金の還付加算金及び地方税の延滞金も同様の措置をとる。
給与所得者に対する住宅取得資金金利の見直し
給与所得者が会社から住宅取得資金の貸付けを受けた場合における経済的利益の非課税判定、ロ−ン控除の対象とならない社内借入金利子の判定は、「年3%」に設定されてきた。この金利水準に最近の超低金利動向を反映して、この3%を金利の動向を勘案して利率を設定する方式に改める。
固定資産税の減免
取得価額20万円未満で「即時償却」により損金算入が行われた減価償却資産、あるいは「3年間一括償却資産」と処理された減価償却資産については、固定資産税の課税客体としないことが明示されることとなった。